「逃げ場所が、音になった」──孤独と誠実さを音に変えるアーティスト・VESPA(ベスパ)の素顔
- スラムリッチ
- 5月30日
- 読了時間: 7分

◆ プロフィール・原点について
――改めて、出身と年齢、普段のお仕事を教えてください。
北海道生まれの26歳です。普段は看護師として働いています。
命に向き合う現場で日々感じることは多いし、ある意味ですごく現実的な仕事なんですけど、その反動かもしれないですね。音楽って、自分にとってはもうひとつの「逃げ場所」であり、「表現の場」でもあって。
白衣を脱いで、家に帰ってからふと鳴らす音とか、書き出す言葉って、職場じゃ吐き出せない感情が詰まってるんだと思います。
――「ベスパ」という名前にはどんな意味があるんですか?
「ベスパ」って、イタリア語でスズメバチって意味らしいんですけど、正直、深い意味があったわけじゃなくて。
音の響きが気に入ってたのと、昔一緒に音楽やってた仲間が付けてくれたのがきっかけです。もともと「Bug bee」って名前でやってて、その頃からなんとなく“蜂”に惹かれてた。小さくて、でも刺すときは刺す。静かだけど、ちゃんと存在感がある。自分自身がそうなりたいって気持ちが、どこかにあったのかもしれません。
――音楽を始めたきっかけを教えてください。
もともとはラップバトルが入り口でした。あのステージの熱量とか、言葉のやりとりにすごく惹かれたんです。でも、自分は即興で鋭く言い返すタイプじゃなかったし、人に対して強く言葉を投げつけるのが苦手だった。
バトルの現場に立ってみて、何か違うなって感じたんですよね。自分の中では、もっと静かに、深く、誰かに届いてほしい言葉があって、それをちゃんと伝えるには音源のほうが合ってるんじゃないかって気づいて。そこから自然と曲を作るようになっていきました。
――初めてマイクを握った時のこと、覚えてますか?
めちゃくちゃ覚えてますよ(笑)。とにかく緊張してて、手が震えてました。自分、もともと声が大きいほうじゃないんで、マイクに声をしっかり乗せようと意識したら、呼吸するのを忘れちゃって。それで酸欠になっちゃって、終わったあとしばらく立てませんでした(笑)。
でも、そのときの自分の「何かを伝えたい」って気持ちは、今も変わってないと思います。
――今の音楽スタイルは、どんな影響で形成されましたか?
最初はlil peepがきっかけで、自分の中にある寂しさとか孤独みたいな感情が音に重なる感じがして、よく聴いてました。
その後、仲間からmidwxstとかglaiveを教えてもらって、hyperpopとかantipopってジャンルを知って、すごく衝撃を受けました。
その音の中には、壊れそうな感情とか、デジタルの中の人間らしさみたいなものが詰まってて、自分も「この質感で声を鳴らしてみたい」と思ったんですよね。
多分、どこかで「届かない声」みたいなものを、ちゃんと“奥行き”として表現したかったんだと思います。
◆ 音楽・作品について
――自分の音楽を一言で表すなら?
「影」ですね。
光があるところには必ず影があって、でも多くの人はその“影”に気づかないふりをする。自分の音楽は、その影のほう、見過ごされがちな痛みや迷い、言葉にできない感情をそっと拾い上げて、形にしてるつもりです。
誰かの胸の奥に沈んでるモヤモヤが、自分の曲を聴いた瞬間に少しだけでも解けたら、それだけで意味があると思ってます。
――リリックを書くとき、大切にしてることは?
とにかく“本質”を探すことですね。表面的な言葉じゃなくて、自分の奥底から出てくる感情をちゃんと拾って、それを誤魔化さずに書く。
普段、人と話すときって怒ったりしないし、割と淡々としてる方なんですけど、その分、自分の中には飲み込んできた感情が結構あって。それがあふれたときに、歌詞にしてやっと消化できるというか。
だから、リリックは自分にとっての“浄化”なんです。
――最近リリースした曲について教えてください。
「Only you」っていう曲を最近出しました。
映像は、いつもお願いしてるCGチーム「COLD GAME」にデモを送って、「これ、映像にしたい」って話をしてから一緒に作りました。
この曲は、誰かと本気で向き合うことの難しさとか、それでも信じたい気持ちをテーマにしてて。感情の揺らぎや葛藤を、あえて無機質なCGの中に落とし込むことで、人間のリアルさを逆に強調できた気がしてます。


――一番思い入れのある曲を教えてください。
「end over」って曲ですね。MVにはしてないんですけど、自分の中では特別な存在です。
書いてるとき、自分では「別に音楽で食ってこうとは思ってない」って思ってたはずなのに、自然と“成功”とか“金”とか、音楽で生きていくことに繋がる言葉がポロポロ出てきたんですよね。
そのとき初めて、自分は本当は音楽で生きていきたいんだって気づいた。頭じゃ否定してたけど、心のどこかではちゃんと“夢”として持ってたんだなって。
そういう意味でも、この曲は自分自身の気持ちを教えてくれた、大事な1曲です。
――コラボしたいアーティストやビートメイカーはいますか?
今は特に「この人とやりたい」っていうのはないです。
人との繋がりって、無理に作るものじゃないと思ってて。自然に出会ったときに、「一緒に作りたい」と感じられたら、それが一番良いコラボだと思ってます。
◆ ストリートカルチャー・ライフスタイル
――ストリートとの距離感についてどう思ってますか?
自分はストリートで育ったタイプではないです。片親だったけど、いわゆる普通の家庭で育ったし、喧嘩に明け暮れたとか、夜の街にいたわけでもない。
ただ、音楽を通してストリートにいる人たちの感情とか、景色にはすごく共感するし、自分なりの視点でそれを表現したいとは思ってます。
――影響を受けたストリートブランドやスタイルは?
ファッションで言うと、Unknown LondonとかWasted Parisのような、ちょっとアウトローででも洗練された雰囲気が好きです。
音楽的には、Emo trapとかHyperpop、Antipopみたいなジャンルがやっぱり自分のスタイルの核になってると思います。
そして、何よりも大きかったのは、以前一緒に音楽やってた仲間たちの存在ですね。彼らとの時間が、自分の価値観をかなり作ってくれました。
――最近ハマってる服やスニーカーはありますか?
「これしか着ない」みたいなこだわりはないけど、やっぱりシルエットが綺麗だったり、ちょっとひねりのあるデザインに惹かれます。
流行を追うよりも、自分のテンションに合うものを着たいって感じですね。
――街でのリアルなエピソードを教えてください。
札幌のクラブで音楽を聴きに行って、終電逃しちゃって、そこから石狩の家まで歩いて帰ったことがあるんですけど、その日は大雪で…。
歩くのも大変で、途中で何度も「これ無理じゃね?」って思ったけど、結局5時間くらいかけて帰りました(笑)。
音楽って、人を動かす力があるっていうけど、あの日の俺はまさに音楽のせいで動かされてましたね。
◆ 今後の展望・メッセージ
――今後、挑戦してみたいことはありますか?
これまで通り音源制作は続けていくつもりだけど、今後はライブをもっとやっていきたいです。
やっぱり、目の前に人がいて、その人に向かって直接音を届けられるっていうのは、音楽の中でも一番“生”を感じる瞬間だと思うから。もっと自分の言葉を、音を、体ごと伝えていきたいです。
――夢や目標はどんなふうに描いてますか?
大勢の前でライブして、その空間を一緒に揺らすこと。それが今の自分の一番の目標です。
でも、その先のビジョンは今はまだぼんやりしてて、たぶんライブを重ねていく中で、自分の中に自然と浮かんでくるんじゃないかなって思ってます。
無理に決めつけないで、でも逃げないで、進んでいく。それが今のスタンスです。
――最後に、ファンやこれから出会う人にメッセージを。
人生って、思ってるよりも短いんですよね。でもその中で、自分にだけは嘘をつかないで生きていけたら、それだけでもう十分価値があると思うんです。
誰かの期待とか、社会のテンプレートに合わせるんじゃなくて、自分の中にある“ほんとの声”にちゃんと耳を傾けてほしい。
そんな思いを、これからも音に乗せて伝えていきます。
音楽配信各種リンク

★音楽配信リンク
VESPAInstagram: @vespa_888
Direction & EditMasaki Fujieda (from COLD GAME🧊)
Instagram: @f_ujied
Assistant to CameraMasaya Yamada (from
COLD GAME🧊)
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Equipment PreparationKai Miyashita (from COLD GAME🧊)
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Instagram: @coldgame_official
Directed by Cold Game
🧊Instagram: @coldgame_official
WRITER BY スラムリッチ
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