京都と大阪の県境に、駅からバスに乗らないとたどり着けない店がある。指圧整骨院やベトナム食品店が並ぶ裏通りにひっそりと佇むその店が、ストリート系ショップ・SCLARCH(スクラーチ)だ。
お店に行ったことがない人でも、MCバトルでラッパーがここの服を着ていたり、ネイムドロップすることで、その名前を聞いたがあるかもしれない。地元のスケーターはもちろんのこと、全国からラッパーが立ち寄るほど評判の店になっている。
そんな SCLARCH が10周年を迎えるということで、代表の KOSHI にインタビューを行った。ブランドを立ち上げたい、自分の好きなことで生きていきたいと考えている人にとって、生きるヒントが散りばめられたの内容となっている。
お祝いムードから始まった話は、次第にDopeな方向へと展開していく。それも含めて、この店が愛されている理由を感じて欲しい。
◤インタビュー◢
ー SCLARCH が10周年を迎えるということですが、お店を始めた頃に思い描いた姿になっていますか?
KOSHI:この店をいつまでやるとか考えてなかったので、10年後の姿は想像もしてませんでした。もっといけるとは思いますけど、その都度、その都度全力は出してるんで、悔いはないです。
ー ストリート系のショップやったら、大阪のアメリカ村とか、若者が集う人通りの多い場所に出店する方がいいように思います。なぜこの場所を選んだのですか?
KOSHI:最初、ここを下見した時には「うわぁ…」と思いましたよ。でも、いい出会いがあって、条件的にいい状態で始められると分かったので、やっていけるんじゃないかなと判断しました。
ストリートカルチャーが好きな人ってローカルを大事にするじゃないですか。店を始めた時は、友達だけじゃなく、ここら辺に住んでる人もよく来てくれて、この地に根付くことができました。
ーお店を始めたいという人は、地元で始めたらいいというモデルケースになりますね。最初から今のような形態だったのでしょうか?
KOSHI:ここが都会でもないから、フラっと立ち寄れるような場所でもないし、ストリート系の服とか音楽を求めてくる人は来ないと思ってたんですよ。だからスケートボードをメインにして、スケーターが買いに来てくれる店を目指しました。
ー お店を始めようと思ったきっかけは何ですか?
KOSHI:10代の頃から自分で店を立ち上げたり、ブランド立ち上げたいという思いはありました。だから、社長さんとかお店の店長に会いに行っては「どうしたらいいですかね?」と相談していました。そうしている中で、いい出会いとタイミングが合ったという感じです。
▌でも、仮面家族だったんです。
ー 周りが就職活動する中、1人で店を立ち上げるというは相当勇気が必要だったと思います。子供の頃から独立志向が強かったのですか?
KOSHI:独立志向になったのは、家庭環境が影響しています。
もともと徳島の田舎出身で、明るくて活発でスポーツが好きな子供でした。両親は2人とも小学校の教師で、人との繋がりもあって、近所からも慕われる家庭でした。
でも、仮面家族だったんです。
良かったのは外面だけで、家の中はヒッチャカメッチャカでした。母親が精神疾患を患ってて、ヒステリックで、気分の上げ下げが激しかったです。父親や叔母とよくケンカしてて、家では怒鳴り声とともに色々な物が飛んでました。手裏剣みたいにお皿が飛んだこともあります。
ー 手裏剣みたいと聞くとドラマみたいで笑えますけど、実際はお皿が割れて大変だったでしょうね。
KOSHI:自分のDVDを折られた時は精神的にキましたね。ご飯食べる時以外は、小5からずっと自分の部屋に引きこもってました。
ー 学校には行けていたのですか?
KOSHI:学校は行ってたんですよ。家より学校の方が楽しかったので。よくグレへんかったなと思います。自分の家は仮面家族やと思っていましたが、中学生になると自分も仮面をかぶっていることに気づきました。
両親からは、小さい頃から教師になるように言われて育てられてきました。自分も教師になるもんやと思ってました。でも、母親は学校でのうっぷんを家で晴らす感じやったから、教師という仕事に違和感をもちつつ、教師になる思いは変えられずにいました。
スポーツも勉強もそこそこできたから世間的には良い子やったと思います。でも、良い子でいないといけないと演じているところがあって、外から家はよく見えてるのに、実際は母親が怒鳴って、自分は部屋に引きこもっていて…
そのギャップがしんどくなりました。
どうでもいいとも思えないほど思考停止して、生きるのがしんどくて…
その時期のことはあまり覚えてないですけど、自殺未遂をしたんです。
ー え!?そこまで追い込まれたのですね。まさかこんな話になるとは思わず驚いています。
そのことを学校の人達は知ってるんですか?
KOSHI:いや、知らないです。
ー あいつ、しばらく休んでるぐらいのもんですか?
KOSHI:自殺しようとしたのが夏休みやったので、学校の先生も知らないです。知っているのは親父だけで、父親も母親に言ったらエラいことになるので言ってないです。
ー 後遺症とかなくてよかったですね。そこからどう立ち直っていくのですか?
KOSHI:相変わらず自分の部屋に引きこもって漫画読むか音楽を聴いていたんですけど、キングギドラのアルバム『最終兵器』を聴いたんです。それまでEXILEとかB'zを聴いていましたが、全然違っていて「なんやこれ!」と衝撃を受けました。そこからヒップホップにハマりましたね。
店内には、キングギドラ「空からの力」のアナログ盤が飾られている
ー キングギドラのどこに衝撃を受けましたか?
KOSHI:Kダブシャインのリリックに惹かれました。ヒップホップからはもう学びの連続でしたね。自分の人生を自分でどうにかせなあかん、いや、できるかもしれないと思い始めました。
親が敷いたレールを一旦外れたいと、大学に行くだけの進学校ではなく、色々な進路が選べる商業高校を選びました。
ー 親は反対したでしょうね。
KOSHI:めっちゃ反対されましたよ。母親をもう説得はできないと思ってたんで強行突破しました。自分で選んだ高校だったので、晴れ晴れとした気持ちでした。
それでも、辛かった時の気持ちをしっかり理解しないと前に進めないと思い、大学では「心理学」を学ぶようになります。高校の頃はとにかく自殺した頃の自分を変えていきたい一心で、その頃から自分で何かできることを探すようになりました。
ー じゃあキングギドラがいなかったら、今頃、教師になっていたかもしれませんね。
KOSHI:絶対そうです。この店はなかったですね。
ー スケートボードは、いつ頃から始めるのですか?
KOSHI:親元から離れたくて、徳島から京都の大学に行くようになります。新しいことを何か始めようと思い、初期費用が安くてヒップホップとカルチャーが近いスケートボードを始めました。
ー その頃のスケートボードシーンではどんな音楽が流行ってましたか?
KOSHI:スケートボードとパンクロックが隣接してて、10-FEET とか Hi-STANDARD とかのバンド系とミクスチャーロックとかヒップホップが混在してて半々ぐらいでしたね。S.l.a.c.k.(現5lack)を流しながらスケボーしている人もいました。
▌自分の人生を映画とかドラマにした時に、ドラマチックで面白い方がいい
ー 遊びの延長から店をやろうという流れになっていくのでしょうか?
KOSHI:何か店をやろうと決めてましたが、何をするかまでは決めてなかったです。スケートボードと音楽が好きで、関連した洋服が売れるかなぐらいの見通しで、とりあえず始めようと思いました。自分にはそれしか知識がなかったので。
ー 好きなことでお店やりたい人はいっぱいいると思います。しかし、実際店舗を構えるには相当な覚悟がいると思います。いかかでしょうか?
KOSHI:覚悟というより、"自分で、好きなことを仕事にできる"というワクワク感が強かったです。それに自分の人生を映画とかドラマにした時に、ドラマチックで面白い方がいいかなと。
あと、やっぱり親の影響はありますよね。親が教師をして荒れてたので、稼げるけど嫌なことをするよりは、稼げなくてもいいから楽しいことをやっていたいです。
ー SCLARCHのオリジナルブランドはいつ頃から始めるですか?
KOSHI:店を始めた当初は、スケートボード寄りの大手ブランドばかり置いてました。服を買ってくれた人がInstagramに上げてくれるんですけど、ブランドばかりがフィーチャーされて、店の宣伝にはなっていないと気づきました。
あと、大量に仕入れる大手の店にはやっぱり単価で勝てないんですよ。お客さんからオリジナル商品があれば買うのにと言われてたので、なら作ろうと思いました。
ー オリジナル商品を作るとなると、素材選びとからですよね。
KOSHI:日本の業者って結構ちゃんとしたボディ(素材)を扱っているところ多いんで、印刷したり、首にタグつけたりっていう加工して売ってます。そこからデザインの勉強もめっちゃしました。オリジナルを置いてる方が楽しいですし、めっちゃ売れますね。
ー MCバトルでは、ラッパーが SCLARCH の服着ていたり、ネイムドロップしたりと認知度が高まって行きました。スケートボードからヒップホップ色が濃くなるきっかけありましたか?
KOSHI:枚方に YUU っていうラッパーがいるんですけど、そいつから「ラップしてみたいんやけど、どうしたらいいやろ?」って相談受けました。ちょうど〈高校生ラップ選手権〉が全盛期で、調べてみたら「枚方サイファー2回目やります」って書いているのを見つけて、「行ってきいな一」って勧めました。
YUUが「友達できた」って店に連れてきたのが、Scooby J とか TERU とか Draw4 とか枚方サイファーの面々でした。そこからラッパーが来てくれるようになりました。
ー その後、ヒップホップが盛り上がるだけでなく、この地にスケートパークができたり、スケートボードがオリンピックの公式種目になったりと盛り上がっています。上手く潮流に乗りましたね。
KOSHI:そうですね。それもタイミングと運と出会いが良かったですね。
ー 今後、SCLARCH をどうしていこうという思いはありますか?
KOSHI:あんまり遠い目標を立てないんですよ。ありがたいことに店を始めてからストレスがほぼゼロなので、変わらず続けていくことが目標です。
あと、自分が辛い思いをしたので、今しんどい思いをしている人とか、行動を起こしたいけど起こされへん人に寄り添う店にしたいです。
ー このインタビューを読んで、相談しにくる人が増えるかもしれませんね。
KOSHI:いまも実際に相談にくる人が多いんですよ、老若男女問わず。心理カウンセラーの勉強をしているのも役に立つかな。僕がヒップホップに導いてもらったんで、自分も導けるようになりたいです。
Instagram:https://www.instagram.com/sclarch_
photo by TOUHA
interview & text by ドラム師匠
let's go 「SCLARCH」🔥