暗闇から、その日暮らしの売女商売 2
- スラムリッチ
- 8 時間前
- 読了時間: 3分
出口なんて、ない
「まずは100人、声かけてこい」
スカウトを始めた初日、言われたのはそれだけだった。
場所は新宿、歌舞伎町へ向かう地下通路。
早足で歩く女たちの波に向かって、僕は立っていた。
キャバクラで遊んでた頃は、女に声をかけることに抵抗はなかった。
だから最初の一歩も、意外と軽かった。
ただ、軽いのは“最初の言葉”だけで、そのあと回が地獄だった。
足を止める女なんて、ほとんどいない。
冷たい目。無視。時には睨み返される。
それでも、1人、また1人と声をかけ続けた。
「お仕事お探しですか?」「夜職に興味ないですか?」
その日は2人、LINEを交換できた。
1人はフリーター。もう1人は昼職を辞めたばかりの子。
まだ何も知らない僕は、喜び勇んでその2人をキャバクラに誘ってみた。
片方は即ブロックされた。
もう1人は、「考えとくね」とだけ返ってきて、そのまま未読無視。
甘くない──そう思った。
でも、なぜかその街にハマっていった。
女の表情、男の欲、金の匂い。
全部むき出しで、わかりやすかった。
気づけば、僕は毎晩のように地下を歩き、朝まで連絡先を集める日々になっていた。
仕事が終わったら事務所で報告して、成果がなければ怒鳴られる。
ただ、数字が出た日は、一気に評価される。
そういう世界だった。
そんなある日──
アオイと出会う
彼女も、駅前の通路にいた。
線の細い体、無理に明るく振る舞うような笑顔。
とても風俗をやりそうにない真面目な子だった。
「ちょっとだけなら話してもいいよ」
親がギャンブルで作った巨額の借金を返すのに新宿に来たとのことだった、それが始まりだった。
紹介して数日後には、風俗に入り、バックが僕に入るようになった。
でも、アオイのLINEはすぐに変わっていった。
「今日、無理やり本番された」
「終わったあと、手が震えて止まらなかった」
「死にたい」
最初は優しく返信していた僕も、やがて感情を殺していった。
そして、リストカットの写真が毎晩届くようになる。
血だらけの腕、赤く染まったタオル。
深夜2時の通知が、胸をざわつかせた。
慣れたふりをしてたけど、本当は怖かった。
精神的に壊れていく彼女の姿と、それを止められない自分が。
バックの回収業務
ある夜、別件で事務所から連絡が来た。
「熟女マッサージ店、バック未納。行ってこい」
雑居ビルの中。深夜2時過ぎ。
電気はついてるのに、店の鉄の扉には鍵がかかってる。
中からの物音もない。
後輩と2人、車で事務所前につけて
無言でそのドアを叩き始めた。
「おい、出てこいや!金払えよ!」
拳が痛むまで叩いて、時に蹴りを入れる。
冷たい鉄が、激しく夜の空気に響く。
10分も経った頃、中からようやく声が返ってきた。
「やめてください…警察、呼びますよ…」
「勝手に呼べよ。呼ぶ前に、てめぇが呼び寄せたんだろ、俺らを」
鉄の扉が軋む音を立てて開くと、店長が怯えた顔で立っていた。
壁に頭を押し付け、無理やりスマホから振込をさせる。
数十秒で終わった。
終わったけど、心に何かが残った。
「これが仕事か…」
ビルのガラスに映る自分が、あまりにも虚ろに見えた。
変化
数日後、通帳の残高を確認して、中古のMacBookを買った。
ずっと興味のあった映像をやろうと思った。
暴力じゃなく、創ることで稼げる世界に憧れた。
このままではいけないって思いながらも、心の中では楽な方向を探す。
スマホからはいつも通りに担当してる風俗嬢から連絡がはいる。
またアオイからのLINE。
「ねえ、まだ私のこと見てる?」
リストカットの画像をいつも通り既読をつけて、画面を閉じた。
普通じゃない、おかしな世界にいると自覚しながらも
優しさなんかじゃ、誰も救えなかった。

続く
Writer by スラムリッチ
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